おんな城主直虎 18話のあらすじネタバレと感想
NHK大河ドラマおんな城主直虎18話のあらすじネタバレと感想です。
あらすじのネタバレは放送開始前に、感想は放送開始後に追記します。
目次
おんな城主直虎 18話のあらすじネタバレ
「…わかった。それでは一筆したためよう」
追い込まれ、観念した様子の直虎に、不気味な笑みを浮かべた政次が言った。
「今回ばかりは間違えのない様に、このまま駿府へ行き、太守様の目の前で直接話していただこう」
「駿府へ…」
直虎にとどめを刺そうとする政次に、我慢ならなくなった直之が鞘を払った。
「之の字!」
直之の前に立ちはだかる直虎。
「斬ってしまえばいいじゃないですか!斬ればこのようなことが繰り返されることもなくなる」
「斬ってしまえばもっと面倒なことになる!我慢しろ!直之!」
駆け寄って来た六左衛門と五平に取り押さえられながら、直之は鬼の形相で政次を睨みつけた。
「但馬、わかった。お前の言う通りにするが、それは置いていけ」
直虎がそう言うと、すぐさま方久が種子島を抱え込んだ。
「わたしが降参したら、謀反のことを駿府には言わないのだろう。それならば、これは必要ないはずだ」
「…おっしゃる通りです」
「では、行こう」
直虎が歩みを進めると、六左衛門たちの手を振りほどいた直之が駆け寄り、政次を睨みつけた。
「殿に何かしたら、お前の命はないからな!」
「…わかっておる」
「六左、留守を頼んだぞ」
事態がいまいち飲み込めず、戸惑う六左衛門を残し、直虎たちは去っていった。
「なんだこれは!まだ出来ていないではないか」
突然、方久が大声をあげた。
作りかけの種子島を手にした方久が、五平に詰め寄っている。
「ここの部分が上手くいかず…」
ほとんど仕上がっているのに、このままでは売り物にもならない。
「あー。やはり元は取れないか…」
状況が飲み込めていない六左衛門であったが、ぼやく方久に、怒りがこみ上げてきた。
「この一大事にお金の心配ですか!」
殿が駿府へ連れていかれたという非常事態に、自分のお金のことしか頭にないのか…
ちょうどその時、祐椿尼とたけが慌てた様子でやって来た。
「六左衛門様!姫様が但馬と連れ立っていかれましたが、何かあったのですか?」
「実は…わたしも詳しくはわからないのですが…方久殿!」
方久に説明させようとするが、方久は種子島を胸に抱き抱えたまま落ち込んでおり、呆然としている。
「わたしでよければ…」と、見かねた五平が申し出た。
五平の説明を聞いている六左衛門たちの横で、方久は一人うなだれている。
しかし、次の瞬間、何かを思いついたように飛び上がった。
訳を聞いた六左衛門は、南渓に相談するため、祐椿尼と共に龍潭寺へ向かった。
またもや駿府へ連行
政次が直虎を駿府へ連れて行ったことを聞き、南渓は黙り込み、何かを考えている様子であった。
「種子島は取り戻しているので、謀反の話にはならないと思います。また、殿が自ら後見の座を譲るといえば、打ち首になることもないと思うのですが」
「おとなしく従うかどうか…」
三人は諦めたような顔で南渓のことを伺っている。
「六左!その種子島とやらを預からせてはもらえないか。ちょっと考えがある」
南渓の申し出に、種子島を取りに館へ戻ると、試作品もろとも無くなっていた。
当然のように、方久の姿もなかった。
「方久殿は?帰ったのか?」
慌てて弥吉に尋ねる六左衛門。
「よくわかりませんが、なにやら、銭の匂いがする!と勢いよく出ていかれました」
「銭の匂い…?」
唖然とする祐椿尼の横で、南渓が笑っている。
「さすがは、銭の犬だ!嗅ぎつけたな」
そのころ、直虎と直之は一晩過ごすための山寺で、荷ほどきをしながら、話していた。
「ここには、つい先日来たばかりですね」
ここまでにくる間、まむしに噛まれかけ、刺客に襲われ、直之がいなければ、命を落とすところであった。
「まったく…嫌になる…」
「わたしは、井伊のためによかれと思って」
「お前を責めているわけではない。自分が情けないのだ。このようなくだらないことで揚げ足を取られ…但馬のいう通り、私など、退いた方が井伊のためなのかもしれない」
「…らしくありませんよ」
直之の励ましを受け、直虎は大きなため息をつくと、気持ちを切り替えた。
「どうにかして大方様にお会いする。太守様には但馬が取り入っているだろうが、大方様ならまだ私の話に耳を貸してくれるかもしれない」
翌日、駿府にある今川の館に到着すると、廊下を歩きながら、直之が政次に切り出した。
「但馬、殿が大方様にお会いして、力不足をお詫びしたいそうなんだが」
「お話ができるようであればな」
「えっ?」
「大方様は今、体調がおもわしくなく、命も危ぶまれるような状態だから」
直虎は絶句した。
「そ、そんなことになっていたのか」
「ご存知なかったのですか?」
「お前が教えてくれなければ、知るはずがないだろう!」
「私も種子島のことなど、知らされませんでしたが?」
鋭い切り返しに、言葉に詰まる直虎。
「自分のことを後押ししてくれている方の様子すら気づくことができないのですか」
さらに痛いところをつかれ、ぐうの音も出ない直虎の前に、突然、見慣れた現れた。
「そ、そなた!こんなところで何をしている?」
「商売に決まっているではないですか」
木箱を肩に担いだ方久が平然と答えた。
「商売?」
表情の曇る直虎だったが、政次はピンと来て青ざめた。
「はい。つい今しがた、直虎様のご指示により、今川様に種子島を五平ごと売り渡してきました!」
直虎も直之もすぐに状況を飲み込んだ。
「で、では!」
「そもそも…謀反をたくらんだ形跡など…」
「どこにもないということです!」
最後は大声で叫ぶように、得意満面で言い切った。
方久は、夜通し馬を走らせ、直虎よりも先に駿府へ到着していたのである。
「方久!よくやった!よくやってくれた!」
「なーに、銭の匂いがしたからですよ」
「直虎様!命拾いしましたな」
三人で手を取り合って喜んだ。
もはや、氏真に会う必要もなくなった直虎を横目に、政次はひとり、氏真の元へと向かった。
政次の背中を見つめながら、直虎の頭には「おとなしく後見を退いた方が、井伊のため、自分のためだ」と言われた言葉がよぎっていた。
肩を落としている政次とは対照的に、氏真はご機嫌な様子であった。
「家中のものが、突然お伺いしたようで…」
「ああ、驚いたが、なかなか面白かったぞ。自らを銭の犬と言っておった」
「あの尼虎も、可愛いところがあるな」
「お喜びいだだくのはいいのですが、何度も言いつけを破ってきていますので、あまり信じられない方が…」
「そんなことは、わかっている!」
氏真が機嫌を損ねた時、家人が顔面蒼白で飛び込んできた。
「も、申し上げます!」
尋常ではない事態を察知した政次は、早々に部屋を出るふりをし、そのまま襖に聞き耳をたてた。
「どうしたのだ」
「さきほど、武田の義信公が、謀反を働いた罪で幽閉されたとの知らせがありました」
息を飲む氏真。
信玄の嫡男である義信は、氏真の妹の嫁ぎ先でもあり、両家をつなぐ懸け橋である。
「なぜだ!何の謀反を働いたというのだ?」
関口が叫んだと同時に、侍女が息を切らせて走ってきた。
「太守様!大方様が!」
寿桂尼の部屋に向かうと、側で看病している氏真の正室である春が、ここ数日が峠だと医師に言われたことを告げた。
氏真は、寿桂尼の枕元に寄り添い、手を取り叫んだ。
「ばば様!義信公がご謀反の罪で、信玄公に幽閉されてしまいました!信玄公に進言できるのは、ばば様しかいません!ばば様!どうか、戻ってきてください!」
その時、死の淵にいるはずの寿桂尼の手が、かすかに動いた気がした。
驚き、顔を覗き込むと、ゆっくりと目が開いた。
「武田が…なに…」
低いしゃがれ声であった。
皆が驚くなか、寿桂尼の両眼が鋭く見開いた。
窮地脱出の機転
「何をしたのか?」
何事もなく無事に井伊谷に戻った直虎たちは、酒の席で盛り上がっていた。
頰を赤くしながら、方久が意気揚々と語っていた。
「それで、わたしが太守様に切り出したのですよ」
種子島を引き合いに出すと、あっさりと通してもらえたという。
「種子島で商売できないものかと思い、井平の職人である五平に作らせていたのです。ここまでは出来上がっているのですが…」
そう言って種子島を見せると
「まだできていない底の部分の金具の細工が出来れば、完成です。あと一歩のところなのですが…この続きを駿府で作らせてはもらえないでしょうか」
「駿府で、これを作る?」
「はい。完成の見通しは立っているものの、大量に作るには人も鉄も必要となります。井伊様に相談しましたが、できないということだったので、いっそのこと太守様に相談してみては?と主人から言われまして」
氏真が喉を鳴らした瞬間、方久は、よし!と思った。
「いかがでしょうか」
畳み掛けた方久の言葉に、間髪入れず「乗った!」と、扇が向けられた。
「どうですか!この話!わたしの知恵!」
得意げに話す方久を六左衛門も絶賛している。
「本当に素晴らしい!和尚様も同じことを言っていましたよ」
「和尚様と!同じくらいの賢さということですか!いやー参りましたなぁ」
「なにを偉そうに。結局は自分のお金のためではないか」
水を差すように直之が口を挟んだ。
「このままでは元が取れないから、お金になりそうな方に乗り換えただけの話であろう」
「あちらもこちらも上手くいけば良いではないですか。あちらで作れれば、こちらにも安く流せますし」
「何とも都合のいい。お前が安くしてくれるのか?」
そのやり取りを笑いながら聞いていた六左衛門が、心ここに在らずの直虎に声をかけた。
「直虎様、どうかしましたか?」
「あっ、いや…和尚様に報告に行ってくる」
直虎は、引きつったような作り笑いをして、立ち去った。
「そうか!それは良かった」
「そうなのですが…」
不思議そうな顔をする南渓に、直虎が続けた。
「助けられてばかりです!わたしは失敗を重ねているだけ…こんなわたしに井伊を守り抜き、虎松に引き渡すことができるのか不安で…」
「知恵などいくらでも借りれば良いではないか」
「あまりにも情けないではないか!」
南渓は、やれやれというように、なにやらごそごそと書物を探し始めた。
「あったあった。ほれ。あっ、これもか」
なんども読み込まれた様子の書物を直虎の前に並べた。
「これは?」
「人の上に立つような人物は皆学んでいるようなものだが」
「そのような大切なものを、なぜ今まで教えてくれなかったのですか!」
「あなたの良さを消してしまう気がして…」
「わたしの良さ?ですか?」
「あなたの良さは、諦めの悪さと、破天荒な考え方だから…」
「???」
「しかしまあ、この辺で先人の考えを学んでみるのもいいだろう」
「政次も、これを学んだのですか?」
「そうだな」
「では、これを読めば、政次の手の内がわかるようになりますね!」
「…まあ…そうかもしれないな」
勇み足を心配する南渓に気付きもせず、直虎は書物を抱え、勢いよく部屋を出て行った。
政次の真意とは・・・
駿府から戻った政次は、ひとり月明かりに照らされた庭を見ながら、酒を飲んでいた。
「何か心配事ですか?」
なつの問いかけに我に帰った政次は、空の銚子を傾けていたことに気付いた。
「あっ。少しぼんやりしていただけだ。気にしないでくれ。そうだ!これをそなたと亥之助に」
そう言いながら、駿府で買った飴細工と干菓子を手渡した。
「まぁ!こんな美しいものを」
「それを持ってしの殿のところに行ってきてはどうだ?」
笑みを浮かべているものの、憔悴した様子を、なつは感じ取っていた。
南渓に書物を渡されて以来、直虎は寝食を忘れるほど没頭していた。
「このようなものをお読みになるのですか」
縁側で読書にふける直虎に、直之が声をかけてきた。
側に置いてあった書物をぱらぱらとめくりながら「何故また急に?」と、直之が言った。
「領主が知っておくべきことは知っておきたいしな。それにしても、皆んな勝手なことばかり言っておるなぁ」
読むうちにだんだんイライラしてきた直虎は、嫌気がさしているようだった。
それを察した直之は、「あまり深く考えず、気に入った言葉を拾っていくといいですよ」と言い残して去って行った。
しかし、納得いかないことを放っておくことができない性格である。
再び書物に目をやろうとすると、向こうから祐椿尼となつが歩いてきた。
「なつ、来ていたのか」
「はい。お久しぶりでございます」
「亥之助の相談でもあったのか?」
「い、いえ…」
「但馬が疲れているようで、心配して何があったのか聞きに来たのですよ」
祐椿尼が答え、去ろうとすると、直虎の困った様子に気付いたなつが、切り出した
「種子島のことは、聞きました」
「なつ…変なことを聞くが…どうして小野の家に戻ったのか?」
姉のしのがいる新野の屋敷の方が、ずっと居心地が良いだろうに。
「今は亡き直盛様からいただいたお役目ですから」
「しかし、今の但馬は、井伊を乗っ取ろうと躍起になっている。あの頃とは違うではないか」
「だからこそ、なおさらです」
「なつは、但馬の思惑を望んでいるわけではないであろう?」
「もちろんです」
「では、但馬と暮らすのは、辛くないか?」
「義兄は私どもを気遣い、政治の話は全くされません」
「気遣う?政次が?」
なつは何か誤解しているのではないか。
「ええ。義兄はとても優しい人です」
「えっ?優しい?」
誤解を超えて別人と間違えてるのではないか。
あるいは、騙されているか…
「そのように思っているのは、なつだけではないか?」
政次を気の毒に思ったのか、なつの表情が曇った。
「直虎様。義兄と色々あるのはわかりますが、それが義兄の全てだと思わないでください」
「どういう意味だ?」
「すみません。おかしなことを言ってしまいました」
話の途中であったが、なつは政次からのお土産の干菓子を渡すと、そそくさと去っていった。
「なつは、情がうっっているのかもしれませんね」
祐椿尼がぽつりと言った。
「今は我々にとって但馬は敵ですが、ひとりの男としてみれば、魅力的な部分もたくさんあるのでしょう」
「わたしは好きではないですが!」
干菓子を白湯で流し込んだ後、直虎は続けた。
「しかし、なつは玄蕃の妻であったわけで…」
玄蕃は、桶狭間で命を落とした、政次の弟である。
「兄弟に嫁ぐなんてよくあることですよ」と、たけが言う。
「でもまあ、なつのことですから、分別のないことはしないでしょう」
そう言って深妙な面持ちになる祐椿尼。
「どうかしましたか?」
「いや、前々から不思議に思っていたのですが、どうして但馬は嫁をもらわないのでしょうね。乗っ取りを企む者は普通、自分の家を大きくしたいものでしょう。しかし、但馬は家族も持たず、贅沢をしたいようにも見えない…どうも、よくわからないのです」
「そう言われてみれば、確かに…」
「そうでしょう?どうして但馬はあそこまで後見に執着するのだろうか」
「父親と同じで、ただ井伊の上に立ちたいだけでしょう」
たけは小野のことをひどく嫌っている。
祐椿尼が散乱する書物を見て言った。
「殿はまだ続けるのですか?」
「はい。なかなか進まないもので」
「あまり無理をされませんように」
二人が去った後も、直虎はひとり思いを巡らせていた。
「なつが、政次を…」
ふと、幼い頃の思い出が頭をよぎった。
政次ー鶴丸が、亀之丞を背中に担ぎ家まで送り届けたこと。
体の弱い亀之丞に無理をさせるなと凄い剣幕で怒ったこと…
「昔は優しいところもあったがなぁ」
ひとりぼそりと呟き、残りの干菓子を頬張ると、また書物を手にした。
「ふむ。敵を欺くにはまず味方から…か」
政次を騙そうと思ったらまずは、六左衛門や直之を騙さないといけないということか。
そう思った次の瞬間、先ほどのなつの言葉が胸を刺した。
「それが義兄の全てだと思わないでください」
つぎに祐椿尼の声まで…
「但馬はどうしてあそこまで後見に執着するのだろうか」
まさか…
まるで答えに導くように、今度は政次の声がした。
「また謀反を企んでいたのでは?」
…ま、まさか!そんなことが?!
直虎は、気付くと龍潭寺へと駆けていた。
鶴と亀ととわは永遠に
皆がまだ寝静まっている時間であったが、南渓の部屋に駆け込むと、まだ寝ていた南渓を叩き起こしていた。
「和尚様!わたしは今までずっと、政次に騙されていたのですか?和尚様はそれを知っていたのですか!」
「…うーん、まぁまぁ、落ち着きなさい」
南渓は身を起こし、あぐらをかくと直虎に話の続きを促した。
「よくよく考えてみれば、政次の行動はおかしいのです。わざわざ告げ口する事を私に伝えたり。もし本当に私を追い出したいのであれば、わざわざ私に言わずに、直接告げ口すればいいものを。なのに、そうせずにこのような回りくどい事をするのは、私や虎松の首を守りながら、私を後見から降ろすためなのではないでしょうか」
南渓は顔色ひとつ変えず、ただじっと聞いている。
「もしかしたら…私はずっと…ずっと騙されて…あの時も!あの時も政次は、直親を裏切る事で井伊を守ったのではないでしょうか」
だとしたら、政次はひとり、どれだけ苦しみ葛藤したことか…
「政次は、今川の犬のふりをすることで、井伊から嫌われながらひとり矢面に立つことで、自らの身を犠牲にしながら、井伊を守ろうとしているのではないですか?」
そうであるならば、私は今まで政次に、なんとひどい事をしてきたのであろう。
「和尚様!なんとか言ってください」
南渓は思い出していた。
「政次は井伊を守ったのだと思う」と言った直親の言葉を。
「…そうかもしれないが、よくわからない。わしは政次ではないからな。でも、あいつは優しい子だからなぁ。お前のいう通りかもしれないな」
「だがもし仮にそうであったとしたら、お前はどうするつもりだ?その思いにどう応えるのだ?直虎!仲良しこよししていては、政次が今まで積み上げてきたものが、水の泡となるだけだぞ」
「政次の思いを無駄にしない様に頑張ります。しかし!政次はひとつ大きな過ちをおかしています。それだけはきちんと伝えます」
「おとなしく後見から身を引いてください。それが井伊のためであり、御自身のためです」
ずっと胸に刺さっていた言葉であるが、この時初めて、その言葉は真の意味を持って直虎の心に響いた。
昼の日差しも和らいだ夕方、一仕事終えた政次は、唯一の安息の場である井戸端にやって来た。
「武田が今川を切り崩しに来たか・・・とすれば今後、この井伊の土地は、今川と武田、松平の思惑に振り回されることとなるだろう」
橘の木に、井戸からくみ上げた水をかけながら、話しかけるように続けた。
「亀・・・あいつにどうにかして伝えてはくれないか。危なくなるから早く身を引けと」
なんと皮肉なことであろうか。
自らが死に追いやったも同然の直親しか、本当の自分を見せられる相手がいないとは。
ふと気配を感じた政次が、振り向くと、少し離れたところに、ひきつった顔をした直虎がいた。
亀之丞と語らいに来たつもりが、最も顔を合わせたくない相手がいたというわけだ。
邪魔者はさっさと消えようと、会釈をしてから背を向けるとすたすたと歩きだした。
すると、すぐに駆け寄ってくる足音が聞こえ、次の瞬間、袖をぎゅっとつかまれ、そこには思いつめた表情の直虎の顔があった。
「どうかなさいましたか?」
「話そう!政次!たまにはふたりでゆっくり話そう」
そう言ったきり、思い詰めていたようなまっすぐな瞳をそらすと、急にもじもじし始めた。
どのように話を切り出したらいいか、懸命に言葉を選んでいたのだが、その様子は、想いを伝えようとする乙女にしか見えなかった。
「いまさら、嫁にもらえなどと言われても無理ですよ」
「はぁ?!」
そんなに嫌そうな顔をしなくても・・・と少々傷ついた政次であったが、「冗談ですよ」と軽く流した。
「相変わらず嫌な奴だなぁ」と言いながらも、緊張がとけ、ようやく直虎は井戸端に腰を落ち着けた。
夕方のそよ風に吹かれ、橘の葉がかさかさと揺れ、その音に直親の優しい声を思い出すと、ようやく心が安らぎを取り戻した。
「お話とは?」
「敵も味方もだますことで、本当に大切なものを守り抜く」
意表を突いた言葉に政次は息をのんだ。
「兵法にはそういう方法もあるんだな。書物を読んで学んだ」
「あ・・・ああ・・・」
「井伊のために種子島を備えようと考えたが、今はそれも今川の手に渡り、今後どうなるかわからない。もし、お前ならばどうするか?」
直虎の真意がわからず戸惑う政次。
「もし、お前が私の立場だとしたら、どのようにして井伊を守ろうと考える?何を備える?
「何故、今、そんなことを聞くのですか?」
「誰よりも井伊を愛し、井伊のことを考えているのはお前だからだ」
あからさまに政次の顔色が変わるのに気付いた直虎は、直球過ぎたかと焦った。
「だ、だ、だって、そうであろう。お前はずっと井伊を手に入れることを必死に考えてきた。もし、手に入れることができたら、お前がこの土地を守らなければいけなくなるであろう」
必死に取り繕う直虎。
「憎らしいほど賢いお前のことだから、昼夜を問わず考え、綿密な策を練っているのではないか。だから聞いてみたいと思ったのだ」
政次は返事に困っている。
直虎が言葉を重ね、取り繕おうとすればするほど、お互いの真意が見透かされていくのを感じたふたり。
「・・・政次・・・私は直親の生まれ変わりとなり、井伊を自らの手で守り抜くことを、自分で選び決めたのだ。だから、もし女であるから守ってあげたいとか、辛い思いをさせたくないなどと思っているとしたら、それはとんでもない、考え違いだ。そんなもの必要ない」
これこそが政次に伝えたかった、大きな過ちであった。
「わたしのことをうまく使え。わたしもお前のことをうまく使う」
幼き頃、いつも二人の間を取り持ってくれた亀之丞の優しい声がそよ風にのって運ばれてきた気がした。
「おとわ、鶴、仲良くしてくれよ・・・」
しばらくして、政次が語り始めた。
「わたしならば・・・戦わない道をさがします」
「戦わない?」
「戦わずに勝ちます。戦いになる前に、周囲の思惑や動きをしっかりと見張り、火種を小さなうちに見つけ出します。卑怯者、裏切者、臆病者とののしられても、絶対に戦いません。それが、大国に挟まれた小さな国である井伊が生き延びる唯一の道だと思っております」
「・・・なるほど。いい。実に但馬らしくて、いいな」
「では、ひとつお知らせをいたしましょう。武田信玄公が、嫡男の義信様を幽閉したようです」
今川の廊下で聞き耳を立てながら、政次は事態が大きく動く兆しを感じていた。
「近いうちに武田が今川を落としにかかるでしょう」
「うむ。戦わずに生き延びるためには、武田の動きに気をつけろということか」
「武田・・・のみならず、松平も・・・」
「・・・松平」
久しぶりに口にした名前が、三河での苦い記憶を呼び覚まし、直虎の脳裏に瀬名の顔が浮かんだ。
戦わずして勝つ
翌日、急いで南渓の元に行き、政次と話したことを伝えた。
「それならば、また、常慶かな」
「あの不愛想な山伏ですか」
「常慶の拠点である秋葉神社は松平も出入りしているし、武田にも近い。そのうえ実家は、「今川につかえている松下家だ」
「それは・・・うってつけのようです。是非おつなぎいただきたい」
「・・・松平への恨みは・・・もういいいのか」
松平が、あの時手を差し伸べてくれていたら、直親は死ななくてすんだかもしれない。
「わたしには恨みをずっと抱えて生きていくなどという贅沢は許されないでしょう。そのうち、瀬名殿にまた、手紙を書きたいと思います」
「それでは、いろいろとお願いいたします」
一礼する直虎に、当主としての器を感じながら、南渓は黙ってうなずいた。
このところ急に頭がすっきりとして、読書がはかどるようになった。
「百戦百勝善の善なるにあらず!戦わずして敵を屈することこそ最上の勝ち!どうだ?なかなかいい言葉であろう!」
そばにいた直之に意気揚々と語って見せたが、直之は何か言いたそうである。
「また、どうせ、女はとか、思っているのだろう」
「な、なにを!孫氏は男でしょう」
「あ、そうだ・・・もし、私がこれを目指すと言ったら直之はどう思う?」
「孫氏は兵法の神です。その神が、最上と言っている勝ち方ですよ?!」
あまりの理想の高さに、直之は半笑いで答えた。
「やって・・・」
「やってみなければわからない!ですよね?」
「お止めしたところで、素直に従う殿とは思えません。だから、わたしは失敗したときの備えをしておきましょう」
そう言って席を立った直之の背中は、とてもたくましく、頼もしかった。
朝夕涼しくなり秋が訪れるころ、井伊では初めての綿の収穫が行われていた。
百姓たちが頑張ってくれたおかげで、たわわに実ったはじけた実から、真っ白な綿が顔を出していた。
張り切って収穫を手伝う直虎の目に、向こうの道を歩く旅人の姿が飛び込んできた。
井戸端で再開した男に似ているようで、目を凝らしよく見たが、どうやら人違いだったらしい。
「さすがに、もう、いるはずがないか・・・」
あの男が、自分と井伊に大きくかかわってくることになるなど知る由もない直虎は、秋晴れのなか、嬉しそうに綿の収穫に励んでいた。
以上、NHK大河ドラマおんな城主直虎18話のあらすじネタバレでした。
以下は実際に放送を見ての感想です。
おんな城主直虎 18話の感想
種子島を所持していたことで謀反の疑いをかけてきた政次でしたが、方久の機転で上手く乗り切ることができました。
さすが一から自分の力だけで財を成しただけあって知恵が働きますね。
今後の直虎と政次の関係も気になる今回でした。
今川と武田の同盟関係が崩れようとする
国を守る道具として種子島という銃を手に入れましたが、やはり政次が邪魔をしてきました。
相変わらず後見人になるために必死です。
仕方なく駿府へ同行することに。
方久はこんな時でさえ金の事ばかりなのですね。
六左衛門に相談された和尚が何とかしようとすると、金の匂いを嗅ぎ付けた方久が種子島を手に消えてしまいました。
すぐに新たなことを思いつくなんて、さすが銭の犬です。
駿府を訪れた直虎ですが、頼りの大方様は病の床に伏せっています。
方久が種子島を手に向かった先は駿府でした。
謀反を企んでいないという証に種子島を売り渡すとは。
銭も儲けられ、謀反を疑われることも避けられて一石二鳥でした。
ただ今川には悪い情報も入ってきます。
武田信玄の嫡男・義信が幽閉されたことで同盟関係が崩れそうに。
武田と北条の力が強まり、松平も勢力を延ばし続けて今川の力は衰退していました。
大国に囲まれ、小さな井伊が生き残るのは勢力図を見る限り絶望的なように感じます。
なつの訪問で政次の真意を知る
政次はなつの前だと心を許したような笑顔をするのですね。
気を遣い土産を持たせて姉のところに会いに行かせる優しさを見せました。
方久のおかげで上手くいったことに素直に喜べない直虎。
周りの人間に頼るのも良いことだと思うのですが。
自分の力が及ばないと情けなく思うのは直虎らしいですね。
そんな彼女に和尚は先人たちの知恵を借りるよう書物を読ませます。
手にしたのは有名な孫子の書物。
中身の難しさに頭を痛めていると直之にアドバイスをされました。
剣術だけではなく勉強家でもあるようですね。
訪ねてきたなつは、政次が疲れている事を相談しに来ていました。
政次が優しく気遣ってくれている事を伝えられ驚く直虎。
嫁も子もいないのに後見に執着する政次に疑問を持つ母の言葉で、実は家を乗っ取りたいだけではないことに気づかされます。
幼少の頃に友人への優しさを見せていたのを思い出し考えさせられたようです。
後見を降りるのは御身のためと言われたことを思い出し、政次の真意に気づき始めました。
井伊家を守るため直親を裏切り、今川の犬だと見せかけて悪者になったことを。
和尚に相談したことで確信に変わったのでしょうか。
戦わないことが井伊の生き残る道
政次は井戸で一人、直虎の行く末を案じていました。
今回で政次の本当の気持ちを知ることができましたね。
直虎一筋でずっと結婚しなかっただけの事はあり、自分を悪者にしてまで守ろうとするなんて純愛です。
誰よりも深く井伊を守ろうと策を練っている政次の真意を知って知恵を借りようとします。
自分を守ろうとしている政次に、女だからと情けをかけないよう言い放つ直虎。
当主として井伊を守ろうとする強い眼差しに、政次もこれからの事を真剣に助言してくれました。
小さな井伊が生き残るには戦わないで勝つ事なのですね。
確かにまわりの大国と真正面から戦ったところで勝つ見込みはありません。
卑怯者とか罵られようとも生き残ることを優先するというのはもっともな考えです。
さらに武田信玄が嫡男を幽閉したことで、武田と今川の同盟関係が崩れようとしている情報を教えられました。
井伊にとって勢力を拡大し続ける武田と松平が今後の脅威になりそうです。
この大きな勢力に潰されないよう上手く立ち回ることが必要なのですね。
大河といえば大きな勢力のぶつかり合いばかり起きている印象がありましたが、戦わないようにする策を考えるのも難しそうに感じます。
沢山の知恵を持っている政次の力を全面的に借りることができれば井伊は確実に生き残ることができるはず。
なつに見せるような笑顔が直虎へ向けられる日が早く来ることを願いたいですね。